核兵器禁止条約の意義と課題

◆国連会議の議長はコスタリカの軍縮大使に。これは本気だ!
  国連会議の準備会が、核兵器国が参加せず反発の中で開かれたこと自体に覚悟の現れが。さらに大事なことは、議長をコ スタリカがとったこと。核兵器問題をめぐっては、大国の思うままにはいかない、どんな小さな国でも国際社会では一国一 票で、議長の役割を果たすことができるという、シンボリックな選択。そして、非同盟外交で重要な役割を果たし、日本国 憲法と並び常備軍を持たない憲法を持つ国。そのコスタリカの軍縮大使である、エレン・ホワイトさんという女性を議長に 選出したのが、2月の準備会であった。

◆ホワイ議長の提案
◎交渉過程は原則公開
  核問題は世界の切実な関心事。大国の裏交渉にゆだねるものではない。市民社会・NGOの参加を保障し、正式な発言権も 与えた。核保有5大国がボイコットする中で、その5大国に対し6番目の大国として市民社会と一緒に議論すると腹を固め た。
◎全会一致を目指すが多数決で
  2015年のNPT再検討会議で、ほとんどの内容で合意しながら、最後に大国が部分的なところでイチャモンヲをつけ、 合意文書全体が保護になった失敗の経験から、議長が打ち出した考え。

◆核兵器廃絶の2つの流れがコスタリカを支えて
  1949年に常備軍の廃止を期待した憲法を制定し、日本と違い名実ともに常備軍を持たないコスタリカ。コスタリカの背後 にある核兵器禁止に重要な役割を果たした国々が。
◎2011年結成の中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)は、結成と同時に「核兵器全面廃絶に関する特別声明」を発表。CELACに参加する33ヶ国がバックアップし、さらにその背後には、118か国が参加する非同盟諸国会議が。
◎オーストリアをはじめ核兵器の非人道性に基づく「人道の制約」を取り上げ問題にしてきた国々。

◆日本の原水爆禁止世界大会とのかかわり
◎最近9年間の世界大会に、国連軍縮担当上級代表が、原水爆禁止世界大会に8回参加し、非同盟諸国やアジェンダ連合諸国や 各国政府代表、今回国連会議に参加した200程度の市民社会・NGOの代表の多くが原水爆禁止世界大会の常連。
◎新しい国連軍縮担当上級代表は中満泉さん
 日本政府がボイコットするなか、外務省からの出向ではなく、根っからの国連職員の日本人である中満泉さんを、国連軍縮 担当上級代表に指名した意味。中満泉さんは「小学生の時に広島と長崎を訪問した日本人の私は、ほかの国連職員よりもさ らに大きなモチベーションを持って軍縮に取り組めると思う」と語っている。

◆市民社会と「ヒバクシャ」に開かれた国連会議
◎第一期会議の冒頭に、被爆者が発言
  会議冒頭に、日本被団協の事務局次長・藤森俊希さんが発言し、条約前文には「核兵器使用の犠牲者(ヒバクシャ)と核 実 験の影響を被って被災者の受け入れがたい苦難と被害に留意し」との一節が明記された。カナダ在住の節子サーローさ ん・日本原水協の土田弥生さん・日本共産党の志位和夫委員長も正式な発言者となった。
 政府代表だけではなく、市民社会・NGOを代表して発言が認められ、そういう会議で条約を作った。

◆核をなくすのではなく非合法化する条約
◎廃絶のプロセスの前に、核兵器は法的に禁止されるべきものということを明確にする
  NPT再検討会議の到達を踏まえたもの。廃絶のプロセスは長く、複雑な道のりとなり、手続き的にそう簡単にはいかな  い。廃絶と禁止の議論はNPT再検討会議で交わることなく、うまくいかなかった。廃絶に至る細かいプロセスが合意できな いからと言って、核兵器の違法かが合意できないかといえばそうではない。それならば、核兵器の違法化を先行させ、核兵 器を禁止しよう。そのうえで廃絶に向かおう。 
◎NPT条約の欠点を改める
  5つの国の核兵器は合法で、それ以外の国は持ってはいけないという不平等条約。それに、則っている限り特定の国の核 兵器は合法のまま。その枠組みを超えて、核兵器を非合法にしてしまうという、腹のくくり方をした。

◆基本的にすべてを禁止
◎第一条、核兵器(a)開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵、(b)移転又は管理の移転、(c)移転又は管理の移転の受  領、(d)使用と威嚇、(e)以上の禁止活動への支援、奨励、勧誘の受領、(f)禁止活動への支援、奨励、勧誘の受領(g)自国 領域への核兵器の配備、設置、展開の許可が明確に禁止。
◎第6条、「その管轄下又は管理下にある場所における核兵器の使用または実験によって影響を受けた人」-つまり広島・長 崎の被爆者や世界の核実験被害者―に対して、医療、リハビリテーション、心理的サポートを含む支援を提供し、「社会的 かつ経済的な包摂を提供する」ことーつまり、社会的・経済的な不平等や差別が起きないよう支援することーが締約国に義 務づけられた。

◆20年間の助走期間を経て、核兵器国が参加しなくても発効する
 今回の条約の核心。核兵器国が参加しないと意味がない。それは本当に意味がないのか。1995年以来20年間頑張った末、2015年のNPT再検討会議での最終文書を核兵器国が潰すのを体験し変わった。「核兵器国が合意できない条約は無意味」との議論をしている限り物事は進まない。と腹をくくった。20年間の助走期間の中で、議論されてきたことが活き活きと生かされ国連会議で、民主的頭語を経て、条約の中身が発展していき、すごい勢いで採択へとつながった。当初案にはなかった第一条の禁止(d)核兵器又はその他の核爆発装置を使用し、または使用の威嚇を行うこと。この規定は最も本質的な問題。核兵器を持つことの意味をなくすもの。民主的議論の発展のたまもの。核兵器の法的禁止を先行させ、核兵器を非合法化したうえで、条約を力に核保有国に廃棄を迫る。核兵器を持っている国家が「ならず者国家」といるレッテルを貼ることができるようになる。

(更新日:2017年09月17日)